曇り

16.4℃寒い。


学校の体育館。体育館自体がかなり大きくステージもそれに従って大きい。大きいだけでなく奥行きも相当あるそのステージ上が張りぼての巨大な岩で覆われていてその急な斜面の上に立っている。


その斜面のコートに近いほうに黒っぽいサバトラのネコがいる。じーっと見てみると生きているのがわかるくらいじっとしている。ところどころ毛が幅3,4センチほどの塊になってそれぞれが勝手な方向を向いているので手入れがされていない野良であることが一目でわかる。


少し近づいてみると毛が塊になっているのは単に体が汚れているだけでなく赤黒い乾いた血によって纏まっているのが見えた。そういえば手も脚も変な方向を向いている。というより、干した蛸のように手足を大の字に広げて地面に張り付くようにうつぶせになっている。と、マスカットを少し濃くしたような緑色の眼がこちらを見て「シャーッ」と唸りながらこちらにむかって来た。手脚をひろげているので走れずにまるで大きなトカゲのように、しかし結構な速さでこちらに迫ってくる。恐ろしいと感じたが、私は足が動かなかった。


あっという間に詰め寄られた次の瞬間どうやったのかわからないが跳んだ。そして私の右の太ももにビタッと張り付いた。眼はずっと私の目を睨み相変わらず「シャーッ」と唸りジーンズに爪を立て、それが少し足に刺さる。全身が血と泥で汚れているし体躯もおなかのあたりでくの字に曲がっている。恐ろしいから殴って払い落したいが強くやると元々傷ついているこの猫は死ぬかもしれない。死ななくても相当痛いに違いない、と思うとそれができない。


一瞬躊躇したそのとき、さらに爪が深く刺さり私はその血と泥で汚れた爪が危険だと感じ、その猫を右腕で薙ぎ払った。宙に浮かんだ落ちていく猫はなぜか猫でなく、同じくらいの大きさの灰色がかった青いトカゲだった。そのトカゲは猫のような怪我もしておらず体も曲がっていなかった。


張りぼての岩肌にぼとっと落ちたトカゲはやはりまたもとの血と泥で汚れた傷ついた猫に戻っていた。そしてまたその緑色の眼で私を睨み「シャーッ」と牙を剥いて唸った。