強制収容所(といってもいいでしょう)に集められた人たちが貧しく足りない食事を前に争う様子を描写した中の一文。


一つの鍋をいくつもの目がじっと見上げて争った。わめく者がいた。拳を振り上げる者がいた。いさかいを恥じて物陰に逃れる者がいた。女たちは悲鳴を上げ、子供たちは隅に寄って身を縮めた。

『下りの船』p20




この“いさかいを恥じて物陰に逃れる者がいた”という一文がすごいなぁと。これがあるとないとでは全然違う。これ以外の光景ってのは難民キャンプって言われるとすぐに思い浮かぶんだけど、“いさかいを恥じる人”には思いが至らない。


たぶん、細くて神経質っぽい感じの独り者のような、そんな人なんだろうなぁ。年寄りかね。