その人は真っ黒なヘリコプターに乗っていた。後ろのドアを開きそこから下を覗き込むような格好で、ロープで体を固定しているとはいえ見ていて少し怖くなるような身の乗り出し方をしていた。


視点はそのヘリを見下ろすくらいのところにあった。地上を見下ろしているヘリをさらに上空から見ている。


その黒いヘリはかなり低空を飛んでいて、ビルで言うと4階から5階くらいの高さしかなかった。にもかかわらず地上を歩く人たちはまったく気にしていない。気にしていないどころか気がついてさえいないように見えた。


と、その歩行者のおじさんの上になにかが落ちてきた。バシャっと頭のてっぺんから液体がかかった。一瞬「え?」という表情がかろうじて私の視点から見えた次の瞬間、そのおじさんの顔から首からさーっと真っ赤に変わり、おじさんはその場で膝と腰を砕かれたように崩れ落ちた。


例の人がヘリから熱湯をかけたのだった。ひどい火傷のために即死したおじさんが倒れているにもかかわらず、周囲の人はまったく気がつかずに歩いていた。


次に彼らのうちで二人並んでおしゃべりして笑いながら歩いているおばさんの二人連れの頭に熱湯がかけられた。この二人も何が起ったのか気がつく暇もなく崩れ落ちしんだ。


それからヘリはつぎつぎに歩行者真上に移動し、あの人は熱湯をかけていった。それは一人倒れるごとに得点できるなにかのゲームのようだった。


私はそれを見ながら「ああ、これだけ人を殺してしまったらあの人はどうやったって死刑になるしかないじゃないか」と悲しい気持ちになった。