フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白 【The Fog of War: Eleven Lessons from the Life of Robert S. McNamara:2003】
見た。
フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白 [DVD]
- 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
- 発売日: 2005/02/23
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アメリカ合衆国のマクナマラ元国防長官のドキュメンタリー映画。時々インタビュアーが質問をするがほとんどが真正面のカメラに向かってマクナマラ本人がしゃべっている。そこに当時の映像・画像・音声が挿入される。
素晴らしく面白い映画だった。
基本的なことは何も知らず名前と顔を知っていたくらいの私にとっては初めて見聞きするものばかりで面白くかつお勉強にもなった。たとえばキューバ危機について。
1992年キューバでの会議。「162発の核弾頭が配備済みであった」とカストロが言った。マクナマラは驚いて通訳の間違いではないと確かめた後カストロに「核弾頭の存在を知っていたのか?」「フルシチョフに核使用を進言する用意があったのか?」「使った場合どうなっていたと思うのか?」という3つの質問をした。
答えは
1.カストロはそのことを知っていた
2.用意があっただけでなく実際にフルシチョフに使用することを進言した
3.使用した結果キューバは壊滅していただろうが構わなかった
当時核弾頭の数は17:1でアメリカが優位にあった。核戦争は避けられないだろうから優位にあるうちに叩いておけ、というのがルメイの主張だった。それに対するマクナマラの主張は「当時すでにソ連の10倍行っていた核実験を抑制すれば優位を保てる」というものだったが軍部は「ソ連は隠れて実験を続けるだろう」といった。「どこで?」とマクナマラが聞くと軍部は
「月の裏側で実験するに違いない」と言った。
えーっと『トランス・フォーマー』ですか?それとも『アイアン・スカイ』ですか?
これは危機を紙一重で脱したという成功のお話。もう一つの成功した話としてはフォード時代のお話があった。当然失敗した話としてこの後ベトナム戦争が来る。これもまた面白かった。
結論としてはベトナム側としては自主独立のために戦っていただけで共産主義かどうかはたいした問題ではなかったが自分たちアメリカは冷戦の一部として戦っていたというもの。これも1995年にベトナムを訪れてベトナムの元外相グエン・コ・タクとじかに話をして分かったことだという。
「歴史を知らないのか?我々(ベトナム)はソ連や中国の駒ではない。我々は1000年中国を相手に戦ってきた。独立のためなら最後の一人までも戦う」
他にもペンタゴンの自分の執務室のすぐ下でクエーカー教徒のノーマン・モリソンが焼身自殺をしたことなどについても語っていてちょっと涙を浮かべていたりする。
もともとそういう人なのか年を取ったからなのかわからないが結構涙もろい爺さんだった。ほかにもJFKについて話したときにも泣いていた。
とはいってもこのインタビューを受けたときの彼は85歳。今のカストロくらいの年齢なんだけど格段に元気がいい。声の張りといい時折カメラに向かって指を突き付けて話すときの調子の強さといい話そのもののうまさといい、このロバート・ストレンジ・マクナマラという人間はとんでもなく頭がよくて体も元気な爺さんでちょっとした化け物だった。
そう、この映画は話の内容の面白さもあるけれどこのマクナマラというひとりの爺さんの魅力によってとても面白いいい映画になっていたと思う。
いちおう付け加えておくと挿入される映像もセンスが良かったしインタビュアーもバランスが良かった。「責任はだれにあると思うのか?」とか「自分に責任があると思うのか?」とか「あなたは(ベトナム戦争の)推進派だったのか単なる歯車だったのか?」とか非難しているとも受け取れるような質問をしているがそういうわけではないのは見ていればわかる(ただ彼がかかわった戦争の犠牲者や遺族が聞いた場合、どう感じるかはわからない)。
声の調子から想像するに映画製作者はかなり若い。緊張感のある質問をしてはいるけれどどことなくマクナマラに対する敬意のようなものが感じられる。それはたぶんこの映画の原題“ Eleven Lessons from the Life of Robert S. McNamara”からわかるとおり製作者はマクナマラからレッスンを受けていたからに違いない。
Lesson #1 :Empathize with your enemy(敵の身になって考えよ)
Lesson #2 :Rationality will not save us(理性には頼れない)
Lesson #3 :There's something beyond one's self(自己を超えた何かのために)
Lesson #4 :Maximize efficiency(効率を最大限に高めよ)
Lesson #5 :Proportionality should be a guideline in war(戦争にも目的と手段の“釣り合い”が必要だ)
Lesson #6 :Get the data(データを集めよ)
Lesson #7 :Belief and seeing are often both wrong(目に見えた事実が正しいとは限らない)
Lesson #8 :Be prepared to re-examine your reasoning(理由づけを再検証せよ)
Lesson #9 :In order to do good, you may have to engage in evil(人は善をなさんとして悪をなす)
Lesson #10:Never say never(“決して”とは決して言うな)
Lesson #11:You can't change human nature(人間の本質は変えられない)
訳が微妙なのもあるけれど一応字幕のまま。
ひとつ気になったのがマクナマラのいう“ネイション”という言葉。“ネイションのために”という理由づけがあればなにがどうあっても良いというようなところが気に入らなかった。私には「仕事だから」も「戦争だから」(マクナマラが批判的だった)も「ネイションのためだから」も同じに見える。