ブリット 【BULLITT:1968】

これを見た。


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40年前の映画。音楽がカッコいいと思う一方で、とても静かな映画。刑事のブリットを演じたスティーブ・マックイーンがほとんどしゃべらない。セリフが少ない。


他の登場人物もかなり静か。微妙にエリック・バナに似ている相棒(ドン・ゴードン)もほとんどしゃべらないし、先住民の子孫かと思うようなでかくてごつい顔をした上司もしゃべらない。ブリットが保護していた証人(役者のパット・レネラはイライアス・コティーズに似ているけど、どことなく銭形警部にも似ている)に至っては一言もしゃべっていない(たぶん)。


とてもきれいな恋人ジャクリーン・ビセットもしゃべらない(もっとも彼女はしゃべらないほうがいい)。タクシードライバー役で出ていたロバート・デュバルはしゃべらせようにもそもそもまともな台詞がない。にやけた表情はいつものままだったけど。


たったひとりペラペラしゃべっていたのはチャーマース上院議員で、この役者(ロバート・ヴォーン)の顔はすごく見おぼえがあるんだけど40年前、ということを考えると多分他人のそら似。というか血縁かもしれないけど年が全然違う。誰と似ているのかわからないのがとても悔しい。ちらっと『インディペンデンス・デイ』の大統領役が思い浮かんだけど、思い浮かんだ役者とはもっと瓜二つのはずなので違う。


ふう。映画の内容としては、上院議員から直々に警護を頼まれたにもかかわらず、あれはない。もっと人手をかけるだろうし、もっと守りやすいところへ移すに決まっている(守り切れないという状態でないと話が動かない、ということはあったとしても)。


殺し屋のほうだって、あれはない。プロだのなんだのいうんなら、ちゃんと死んだことを確認するだろう。収容された病院にまで殺しに行くくらいなんだから。最後(空港でのドロケイというと『ヒート』を思い出すけど、まさかこの映画からとったってことはないだろうなぁ)にしたってあんな間抜けな話はないだろ。銃だってどうやって持ち込んだんだ?


とはいえ、なかなかよかった。地味なところがすごい。恋人のキャシーが殺人事件の現場に居合わせ、女性の遺体を前に普通に電話で連絡していたブリットを見たあと、ブリットがあらゆるものに無感覚になっているとなじる。それに対して最後、犯人の遺体に上着を掛けるという解答。ちょう地味!


銃だってほとんど使わない。今の映画だったらもうバンバン撃ちまくって殺しまくるだろうに、この映画ではほとんど使わない。カーチェイスの末に事故ったマフィアの殺し屋が死んだりするくらい、今ならスルーされるだろうに、この映画では死人を出したと署長から責められたりする(今でも、生かして捕まえられなかったのか?くらいは言われるだろうけど)。


言葉だって丁寧だ。“Fuck”など一度も使われない。溜めに溜めたイライラを爆発させたって"Bullshit.Get the hell out here, now."くらいですよ。すげえ。「節度」という死語を思い出した。


しかし、サンフランシスコでのカーチェイスというと必ずあの住宅街の急な坂道で2台の車が交互にジャンプしたりしないといけないんだろうか。古いスポーツカーがギュンギュン走るのはかっこよかったけど。あ、ひょっとしてサンフランシスコでのこういうスタイルのカーチェイスはこの映画が初めてなのかもしれないな。アクションとしてはそれくらいよかったし。


でもね。節度ある刑事と節度ある犯罪者のカーチェイスは、一般の皆さまの車にぶつかることも極力避けようとしていて、実は見ていてとても和んだ。