この国道は片側一車線の狭い道とはいっても交通量が多いため、歩道が途切れる小さな峠の間だけ脇道に入る。この脇道は旧道らしいが、車は通れない。昔の人たちが徒歩で行き来していたころの道だった。こちらは狭い代わりに峠の部分をぐるりと回り込んでいるために上り下りがなく、ほぼ平坦だった。


僕はだれかと一緒にテクテクと歩いていた。下校中のような気もするけれど子供じゃないような気もする。左手は峠なので緑がこんもりとしている。右手の狭い平地には草が茂っていて、そこここには小さな池がある。ここは小さな谷になっているので川も流れているはずだった。


この脇道にはいって4分の3ほど来た辺りで右へと膨らんできた道もおわり、左へと曲がる。ここからは軽い上りになっている。と、視界の隅、右手でなにかが動いた。自然にそちらを見るとライオンがいた。


ライオンは座っていて、自分の両手の間にある草を手でいじったり口で加えたりして一人で遊んでいた。


急に動きを変えると見つかってしまう。そう考えた僕は同じペースで歩きつつ、顔をゆっくりと進行方向へ戻した。その間にもライオンは見えていたけれどよく見るとすっごい大きい。頭もかなり大きく、いっかいガブリとやられたら頭はもちろん上半身ごっそり食いちぎられそうにでかい。


振り返ったわけではないけど、後の奴も気がついたようで雰囲気が変わっていた。気付かれないように早くこの道を抜けて人のいるところまで行きたかったが、走るわけにもいかない。全ての意識を背中に集中させつつ、てくてくと歩いて行くと、黒くて大きいけれどヨボヨボな年より犬と散歩しているこちらもヨボヨボの飼い主の爺さんが歩いてきたので、首を大きく振り、両手を胸の前で水平に振りながら、こっちへ来るな!とサインを出し続けた。


それに気がつかない爺さんと爺さん犬はヨボヨボと此方へ向かって来る。すれ違うところで爺さんのかたを両手で押しとどめて、あっちにはライオンがいるから引き返しましょう、といって強引に押し返し一緒に国道まで歩いて行った。


と、国道へ戻る手前右手に、ときどき公園で見かけるような、鳥の檻のようなものがあった。中を見てみると鳥どころではなく通常の動物園にいる動物が一通り揃っていた。ああ、ここから逃げ出したのか。納得した私はどこに穴が開いているか分からないので、そこもまたコソコソと通り過ぎた。


ようやく国道まで戻ってきた私は峠を降りたところに二軒並んで建っている民家に駆け込み、事情を説明し通報をしてもらった。ライオンがいた、などと言えば普通はまともに取り合ってくれるとは思わないけれど、そのおばさんは私の異常なまでの焦った様子を見て本当のことだと分かってくれたらしい。あるいは言われたとおりにしないと身に危険が及ぶと思ったのかもしれないけれど。


しかし電話を置いたおばさんが言うには、市役所のひとは、わかったので洗濯ものを取り入れたりしないで、家~出ないようにしてくださいとだけ言い、電話を切ったらしい。


役人なんてほんと屑だな!とその場にいた4人で言い合ってみたけれどもなにも変わらないので車に乗って街の人達へ知らせに行くことになった。小さな車に8人ほどの大人がギュウギュウ詰めになって街へと向かった。助手席にはなぜか新聞記者が同乗していてこれを報道するんだ、と言っていた。テレビじゃないと遅すぎるんだよ、と思ったが黙っていた。


街へ着いてみると、通りでは先ほど檻の中で見たアフリカゾウが何頭も走り回っていた。街中あちこちでパオォーという鳴き声が聞こえ、あちこちで盛大な土煙りが上がっていた。