善き人のためのソナタ 【Das Leben der Anderen/The Lives of Others】

これを見た。


善き人のためのソナタ スタンダード・エディション [DVD]

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ジャケ写をみて、なんだかy国党軍事裁判のようだな、と思ったけど全然ちがった。


冷戦終結直前の東ドイツで、唯一西側諸国でも国内でも受けがよく評価の高かった劇作家ドライマンを調べることになったシュタージの大尉ヴィースラーのお話。ドライマン本人が留守の間にさっさとアパートに盗聴器を仕掛け、それをのぞいていたお向かいの奥さんに、口外したら娘は退学になると口止めしつつ、屋根裏に設置した盗聴機器で監視を始める。


この監視をしているヴィースラーはシュタージ内でも堅物で通っているような男でその尋問技術は高く、大学で講義を受け持つほどなんだけども、どうもこのドライマンの監視を上司に進言したのは、そのとき舞台で主演していた、ドライマンの恋人、というか殆ど内縁の妻であるところのクリスタのファンだったようで、そもそも動機が不純だった。冷徹で腕のよい殺し屋が、いつもとは違ったウェットな感情によって仕事に支障がでて、結果命を落とす、というパターンに似てなくもない。


優秀な劇作家の日常を監視しているうちに、その人間味ある生活にあてられたのか、段々と変化していくヴィースラーが面白い。ドライマンの生活とは対極にあるようなヴィースラーの生活。一人暮らしで仕事一筋、部屋にはほとんど何もなく、たまに娼婦(それもひどい)を買う程度のその暮らし振りはとても惨めに見える。ドライマンはのちに、党に睨まれて仕事を取り上げられていた尊敬する演出家の自殺をきっかけにそれまでの波風立てない方針を変えて体制批判の文章を西ドイツの雑誌に発表するんだけども、シュタージがその原稿の分析をしているシーンで、フォントの形状から東ドイツで一台も登録されていない西側のタイプライター(すべてのタイプライターを登録していたという異常な体制!びっくりした)だと結論づけているんだけども、それを巨大なパネルにいろいろと貼り付けて説明している。そこが何とも滑稽で間抜けでかなしい。国境では自殺者も出ていたというし、壁を越えようとすれば銃殺されていたんだけども、その中身はすでに滑稽なものでしかなかったというあたりが涙を誘う。


ヴィースラーがシュタージや党の現状に疑問を持ち始めた原因の一つに、上司の腐敗っぷりが描かれている。その一つがシュタージの末端局員が食堂でホーネッカーを馬鹿にした笑い話をすぐ隣で聞いていたヴィースラーの上司が、「けしからん、お前のキャリアはもう終わりだ!」と怒鳴りつけたあと、青ざめた局員をみて冗談だ、と局員以上にひどいホーネッカーを馬鹿にしたネタを披露する。そしてみんなで笑って、その場は収まったかのように見えたんだけども、映画の最後あたりでその末端局員が、左遷されたヴィースラーと同じ部署にいたので、ああやっぱり飛ばされていたんだな、とわかる。見てて笑ったけど、本当は笑えない。くそ下らない体制。いくらクソでもやっぱり体制は力があるので、その所為で命を落とす人間もたくさんいたりする。


東西ドイツ統合後に、屑野郎の元大臣が大きな顔をして表をうろついていたのが腹立たしい。やっぱああいうのは銃殺せんといかん。