ヒトラーの贋札 【Die Fälscher/The Counterfeiters】

これを見た。


ヒトラーの贋札 [DVD]

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第二次世界大戦のドイツ、ナチによるホロコーストの陰でこっそり行われていた贋札製造のベルンハルト作戦(Bernhard Krügerの野郎、85歳まで生きてるよ!)。強制収容所に入れられたユダヤ人の中から贋札製造に必要な技能を持ったものを集めて、ほかの収容者たちからも隔離した状態で作戦に従事させる。ドイツ人でもできそうだけれども、戦争が終わった時に皆殺しにして証拠を消すためにユダヤ人のみで構成した、と少なくとも当のユダヤ人が思っている。


彼らの中で全体を指揮しているのが偽札製造で逮捕されたその道のプロで、この映画の主人公サロモン・ソロヴィッチ。演じたカール・マルコヴィックスの顔がすごくいい。国際的な偽札製造で有名になっていただけあって頭の回転もよく、その技術も超一流、でありながらどこかケチくさい小悪党のようなヒネタ感じの容貌がとてもよかった。


ポンド紙幣でイングランド銀行からお墨付きを貰うという大成功を収めたあとは、最低でも偽札製造の同僚からは犠牲者を出さないように気を配りつつ、反ナチのビラで逮捕された真っ赤っかの同僚(うぜえ。俺だったらメガネ野郎のように密告する前に殺す)に押される形で偽ドル紙幣の完成を遅らせようとするサリー。唯の鉄道員だったにもかかわらず、印刷工と嘘をついて偽札グループに逃げ込んできた男や結核にかかった美大の後輩、さらには収容所で妻を失い、これ以上捨てるものが亡くなった真っ赤っかで過激でグループにとっては超危険な男までかばおうとする。いったい小悪党のどこにそこまでする理由があるのか。逮捕前からどこか自分自身がユダヤ人であることから遊離していたように見えたサリーなのに。


ひょっとするとユダヤ人であるから同胞であるからがんばったのではないのかもしれない。一人の人間として同じ境遇にいる人間を助けたかっただけかもしれない。小悪党にも五分の魂。一匹狼でやってきた小悪党だからこそ、か。ユダヤ人だから、という理由ならばあの赤のような行動にでるのが正しいのかも。


映画を見ているものもサリーたちと同じく最後の最後になるまで、文字通り虫けらのように扱われてきたユダヤ人を目にしない。贋札製造ということでベッドで眠り食事も十分、シャワーまで浴びられる生活をしてきた彼らと、銃を手に板塀をぶち破って入ってきたガリガリに痩せた収容者の差に愕然とした。