虎よ!虎よ!

こないだ電車まで時間があったので本屋に寄った所為でついつい買ってしまった。





新装版ということで初版。どこだったかネットで傑作だみたいな話を読んでいたので、期待して読んだ。それがいけなかったか。


普通のオーソドックスなSFだった。ジョウントと呼ばれるテレポーテーション現象の命名仮定が面白かった。お金持ちほどジョウントせず、車に乗ったりすることが高いステイタスの証だったり、ジョウントできない人たちが最下級の労働者になっていたり。


普通のSFと書いたけど、展開の速さ、速度が素晴らしい。速い。加速装置も出てくるけど、小説自身が速い。もちろん速さのなかでも、漂流中の様子などじっくり時間をかけているところもある。そういう緩急の使い分けのバランスがいいらしい。


もしこれを傑作というなら、それは最終盤、視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚が絡み合って、それぞれの機能が入れ違いになっているところの描写が、それに相当するかもしれない。こういったアイデア自体はもっと昔にあったかもしれないけど、もしこれが本当に最初ならそれだけで硝酸に値すると思った。


解説にある、著者の語った言葉のなかでタイポグラフィーについて触れられているけど、原著ではどんな記述だったのか見てみたい。いろいろ実験的な要素があって面白い。


セレスのフォーマイルになってからの場面、仮装舞踏会に出席したセレス=ガリー・フォイルがアルブレヒト・デューラーの『死と乙女』の死に扮したと書いてあったのでデューラーの絵画をざっと見まわしてみたけど該当する絵が見つからなかった。地の文だし、わざわざ実在した絵描きの名前を出しているので、ありそうな気がしたんだけど、ひょっとしたら著者アルフレッド・ベスターの勘違いかもしれない。