まれに見る悪夢

ここはどこだろうか。周りには装飾もなにもない、ただの箱のような家ばかりが見える。どの壁もひどく汚れている。出入り口にはドアもなく、ただ四角い穴があいているだけだ。


そのスラムらしい町の舗装もされていない細い路地に立っていた。ひどく臭う。いろんなものが腐ったにおい。それに煙。臭いな、と顔をしかめた私は不意に尿意を感じた。いきなりだったにも係わらず切迫している。道の中央にはこれまたひどく臭う油混じりの汚水がチョロチョロと流れているし、ところどころぬかるんでいる。建物と建物の間にはゴミが詰まっており、その隙間からは貧相な雑草が頭を出している。これならそのへんで立ち小便しても何の問題もなさそう(自分の小便のほうがキレイなのではないかと思う)だったが、習慣とは恐ろしいもので、なかなか立ち小便ができない。


困ったと思いつつその場でぐるりと見回してみると、幸運なことに右手すぐ後ろの建物が公衆トイレであることに気づいた。スラムなのに公衆トイレがあるのかと驚きつつ、足を踏み入れて後悔した。凄まじく汚れている。当然臭いも路地の比ではなく、腐臭に加わったアンモニア臭がとてもきつい。どうやればあのようなところまで汚れるのかわからないほど高い位置まで壁が汚れている。しかも便器がない。床に大きな四角い穴が2つあいているだけだった。しかもその穴は大きく、床のほとんどを占めている。立つ場所がない。かろうじて立てるのは凄まじく汚れた壁際の床から15センチほど出っ張った梁のようなところしかない。


これならいっそのこと通りの真ん中でしたほうがましだと思ったけれど、せっかく入ったのだし、私はその細い縁に立って用を足し始めた。四角い穴の中はどういう構造になっているのか、外から光がさしているようで、建物の中の暗さとは対照的に明るく光っている。そこには2,30センチほど半透明の液体が溜まっている。そこに向けて放尿していたところ、穴の右奥のほうからなにかがゆらゆらと流れてきた。


ゆっくりと流れてきたのは長さ50センチ、幅30センチほどの茶褐色の丸みを帯びた物体だった。目を凝らしてその物体を見た途端、全身が硬直した。赤ん坊だった。胸の前で両手を握りしめ、両膝もぐっと曲げていた。焼死体かと思ったが、肌の色が茶褐色なだけで火傷のあとはない。だれかが産んですぐに捨てたのだ。


驚きとおぞましさで硬直していたにも関わらず放尿は続いていた。逃げることもできなかった。早く終われ、早く終われ、と視線を外せないまま赤ん坊の死体を見つめていたそのとき、その赤ん坊から一筋の液体が飛び出した。赤ん坊は生きていた。あろうことかこっちに向かって勢いよくおしっこをふきかけてきた。逃げられないまま私は、尿に浮かぶ新生児が放ったおしっこを全身に浴びていた。自分の小便を赤ん坊に浴びせつつ、また赤ん坊のおしっこを浴びながらあまりの汚らわしさに卒倒しそうになっていたが、「あの赤ん坊を助けなきゃいけない。でもあそこに降りて拾い上げるのか。無理だろ。でも放っておくとほんとに死んでしまう。どうしよう…」などと考えていた。


そこで目が覚めた。最悪の朝だった。今日は歩きながら煙草を吸ってるキモはげ2匹、キモブタ2匹、計4匹に遭遇した。やっぱり最悪だった。