昼過ぎに土砂降り。だがそのころ町の反対側ではまったく雨が降っていなかったのだった。

「今日は降らへんかったなぁ」「えーー!!土砂降りでしたやん!」

みたいな会話があったとしない。んでいつものようにお酒をご馳走になっておなかいっぱい食べたとしない。

「ぷっふぁー^^おなかいっぱい。もう入らへんわ。ごっつぉーさーん」と言いながら店を出た。うっぐぁああああああぁ〜あ〜あ!と思いっきり伸びをした。

ぶちっ。基、ヴチッ。首のなかで何かが切れたような音がした。というか絶対切れた。すんげぇ響いた。

怖くて伸びをした姿勢のまま固まってしまった。しかしヨッパライとはいえ人通りもそこそこあるし、いつまでも両腕をのばして顔を空に向けているわけにはいかない。おそる、おそる、腕を下ろしつつ、顔を前に向け直した。

大丈夫。どこもなんともない。ほっとした勢いも手伝ってアーケードの商店街のど真ん中をちゃっちゃかと歩きはじめた。リズムよく歩けると気分がいい。速く歩くと向かい風が顔に当たって気持ちいい。

どんどん速く歩く。するとどんどん気持ち良くなる。なのでさらに速く歩く。なんだかえらくなったきがしてきた。みんながさーっと両側によける。ずんずんあるく。ぐんぐんみんなが小さく見えてくる。

その時、急に体が動きにくくなった。え?と思って立ち止まり苦しいお腹を見てみるとなんとまぁ。ズボンがビッチリ、ベルトがおなかに食いこんでいるではないか。しかも裾から脛が見えているではないか。しかも上半身もすごいことになっている。シャツのボタンがいまにもちぎれそう。何これ…

そーっと周りを見回すと、買い物袋を提げたおばさんや自転車を押して歩く爺さんがこっちを見ていた。見ていたというか見上げていた。みんなが小さく見えたのではなく実際に小さかった。というか俺でかくなってる。高さ2mはある。縦方向だけじゃなく横方向にも大きくなっている。なんで?

とまっていても仕方ないので銀行の前にある広場までいって座ろうと思い、一歩踏み出した。ぐん…え?いま大きくなったよ?自覚できるくらいおっきくなった。えーと、歩くとでかくなるのか?

もう一歩前に出す。ぷちっ。シャツのボタンが飛んだ。やべぇ。えーと、前に進むとそのつどでかくなるのね。じゃ、と踏み出した脚をそのまま戻して後ろに下げてみる。ぐん。シャツのボタンが全部飛んだ。なんという破廉恥な格好だろう。ズボンだってもう裂けそう。

えーと、前でも後ろでも同じなのね。どうすればいいの?もう2.5mくらいになってんじゃん。このままいくととりあえずズボンがやばい。パンツがやばい。ハルクみたいにノビノビのズボン穿いてればよかった。

しまった。オチが思いつかん。とりあえず広いところへ行こう。もう真っ暗だし、いいや。おれは幹線道路に向かって走った。どすん、どすん、どすん。ぐん、ぐん、ぐん…

もう走れない。いっぽ歩くごとに数百メートル進む。足跡は深い穴となり、ところどころで水が噴き出している。

さっきでっかいビルを踏んだけど痛くなかった。ごめん。ずーっと下、右足の小指のそばで、おまわりが撃ってきた。右の腿がぴりって痛かったけど仕返しはしない。さっき交番踏みつぶしたし、たぶんおれはもう警官殺しだし、仇を取りたいんだろ。しょうがない。

えーと生駒山を3歩で越えたし、ということは今これ大阪?広い場所を選んで次の一歩を選んでいるけどもう山が見当たらない。真っ裸の巨人が一人ツイスターやってるみたいだけど、もうよけ切れない。街を踏みつぶしている。当然いっぱい殺しちゃったんだろうな。チカチカ光るので横を見たらちょうど顔の高さに飛行機が飛んでいた。蚊よりちいせえ。

いくら橋下でもこんなに早く自衛隊出動はねえだろうな。というか90式で撃たれたって大した怪我にもならんな。イージス艦くるかな。あ、在日米軍が勝手にやってくるかな。あいつらなら核隠し持ってるだろうし、核ならやられるかな。ぼんやりそんなことを思いながら数歩進むうちに両足とも水に浸かっていた。ひんやりするな。なんか星が近く見える。というか空気薄くね?ぼーっとしてきた。耳が痛いし、吸っても吸っても空気が入ってこねぇ。顔だけ冷たいし。うーわ、風船おじさんみたいになるのか?気が遠くなってきた。でもこんなところで止まってても仕方ない。とりあえず死ぬまでに地球一周でもするか…

それが最後の一歩になった。頭が完全に成層圏突破した。顔が『トータルリコール』のシュワちゃんみたいに膨れて行くのがわかった。屈もうとしたけど遅かった。はじける瞬間に見えた足もとの地球は青かった