晴れ


日中はとても暑かった。蒸していた。動かずとも汗がにじむ。

帰り道。駅を出たとたんぽつぽつ雨が降り出す。降ってくる雨粒がどんどん大きくなり、数も増えてきた。家までもう50mほどというところで猛烈な土砂降り。だがしかし、ここまで来て走ったら負けだ!という思い込みの所為でぼとぼと。

玄関から入り、濡れた鞄を拭き、濡れた服を拭いてハンガーにかけたあたりで、雨は当然のように止んだ。

これは普段ならまぁまぁ中程度の不運だが、今日に限っては気にならない。それはなぜか?

今日は午後の大半、22、23歳くらいの学校出たての、しかもかわいらしい女の子と二人きりでお仕事をしていたのだ。広い部屋の片隅で、あれやこれやと手取り足取り(足は言いすぎ)いろいろと教えてえらく喜ばれた。大したことないのにすごく感心されたり、彼女が始終これでもかっこれでもかっというほどにこにこ笑顔だったのでおっちゃんはもう有頂天。

仕事が終わって居室に戻り、洗面台で汗でテカテカした顔を洗おうとしたその時、有頂天、ふわふわと天高く舞っていたぼくはまっさかさまに墜ちた。

ちょー!右の華から華毛が一本飛び出してるじゃないか…僕は瞼に残る彼女のもっすごい笑顔を思い出して…しんだ。

なんやこれは!なんで今日なん?華毛が飛び出るなんて年に1回あるかないかの珍現象なんだぜ!なんでよりによって今日なんや!

なんかさ、ある程度の長さになったら抜け落ちるはずの華毛がさ、一本だけ剛毛なやつがいて、どうやらそいつは飛び出す直前まで華の奥で引っかかって曲がったまま成長していたらしくて、そいつがなんかの拍子にびこーん!と本来の長さを発揮しやがったみたい。ああ、無理やり抜いてやったさ。涙が出たのはその所為。

きっとこの暑さが原因だ。温暖化現象の所為で異常に成長しやがったんだ。そうに違いない。なんでよりによって今日なんだ。あの娘の前なんだ。なんで俺なんだ。色が白くてさ、ほっぺがぽわ〜っとピンクでさ、素直でさ、ふわ〜っといいにおいがするんだよ。

ということで、突然の土砂降りで濡れることくらいなんでもなかったの。なんでもないどころかちょうどよかったわ。

てやんでぃばーろーちきしょー!

追記:ということですわ。世の冴えない男ども!おまえらもせいぜいがんばれよな!