フリードリヒ・Sのドナウへの旅

を読んだ。これもなかなかいいと思いました。


フリードリヒ(少年と付けたほうがいいのかな)の淡々とした語り口がいい。ただ、徹底的に淡々としているあたり、既視感があるけれどよく思いだせない。ヘッセ?かなんかのドイツものの翻訳みたい。ま、翻訳っぽいのはいつものことだけど、最近はあまり気になってなかったから、少しずつ翻訳臭さが抜けてきているのかもしれない。この作品は1998年もの。


内容は、特に目立った山はなく、なだらかな感じ。というかフリードリヒがそういう語り口だし、語り手(誰なんだろう?)による描写も淡々としているのでそのように感じるだけで、実際起こったことを考えると、もっと激しい物語りが出来そうなんだけど。『1809』を思い出しつつ読み返すと面白い。あっちも一見淡々としているけど、そこはやっぱり熱くて激しいものが下に隠れているし。こっちはどこまでも静かで冷たい感じがしている。というわけで、ただ一人キーキーがなっているボナパルト君がアホでマヌケなおっさんに見える。


とはいえ、フリードリヒ君にも一瞬だけ熱を感じられるところがあった。

好きな娘がいただろう。

「差し向かいになったこともありません。二回か三回、踊ったことがあるだけです」

 彼女に計画を洩らしたことはないか。

「いいえ、絶対に」




この後の空白とのコントラストというか、空白の所為で余韻があってとてもいい。いいなフリードリヒ。