幸福のスイッチ 【幸福のスイッチ】

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これは思わぬ掘り出し物でした。いやぁ、まったくといっていいほど期待していなかったということもあるんだろけれど、王家衛のあとだしなぁ。やっぱり良い出来だと思います。冒頭の壁に投げつけた電球が割れる画を見てキタ!と直感したくらいですもん。

東京のデザイン事務所に勤める怜(上野樹里)が、ツマランチラシのイラスト仕事がイヤで営業と衝突、衝動的に退職してしまったところに姉入院の知らせと新幹線の切符が届く。ということで、故郷へ帰ってきた怜であるが、姉・瞳(本上まなみ)はただの妊娠で、実際は怜と仲の悪かった父・誠一郎(沢田研二)が足と腕を骨折して入院したので実家の電器屋を手伝って欲しいということであったが、正直に言っても帰ってこないと踏んだ三姉妹の末っ子・香(中村静香)が嘘をついていた、ということが分かったのでとっとと東京へ帰ろうとしたけれど仕事やめたしお金もないしということで、1ヶ月だけ手伝うことになったその様子を描いたお話。

うん。上野樹里最高。これはいい。さらにいいのが沢田・ジュリー・研二。そう、これは樹里&ジュリーの映画なのだ。そして彼らに増して良いのが既視感駄々漏れの和歌山の田舎の風景。物凄い寒村。これがいい。いかにもというナショナルを主に取り扱っているらしい電器屋・稲田電器=イナデンの佇まいも素晴らしい。佇まいだけでなく、各家庭の間取りや人間関係までもフォローしつつ、アフターサービス命といった商売を続けるジュリーも良い。俺の実家の婆さんも、値段が高いのは分かっているけど電器製品は必ずイナデンのようなナショナルの電器屋しか使わない。なんか涙出る。まぁ、和歌山を第ニの故郷と勝手に呼んでいるので偏見なのは間違いないんですけど。

ただ残念なのが、どうも和歌山にしては天気が良くないところ。どうも真冬に撮影している感じがする。和歌山は近畿の中でもちょっと、というかだいぶ毛色が違う土地で、住んでいる人の性格も言葉遣いも他府県とはかなり異なっているんだけども、その異なっているいちばんの理由は燦燦と照りつける太陽とおおきな太平洋の所為だと思っているので、天気が悪いのはとても残念。快晴と真っ青なでっかい海がもっと映しだされていれば傑作になっていたかもしれない。この映画、話の展開自体はありふれたもので予測しやすいとか、浮気の話がちょっと無理があるとか、ところどころ演技が甘いとか、細かい点でダメなところはちょこちょこあるけれど、それらを打ち消して余りある魅力があるのですよ、和歌山の太陽と海には。天気がよかったなら、役者だってもっと良くなっていたかも知れないしね。

とはいえ、やっぱりいいですよこれ。上野樹里たんの映画ではベストでしょう(『スウィングガールズ』なんて目じゃない)。K博士は見るように。というか買え。


そうそう。いやな婆さん役で出てきた新屋英子さん。『ジョゼと虎と魚たち』でも良かったけれど、今回めちゃくちゃいい。世の映画監督、テレビドラマの監督はもっといっぱい使えばいいのに。確かに濃い。物凄く濃い。でも良い。温水さんもいいけれど、新屋さんをもっといろんなところで使ってください。もっと、もっと見たい。はやくしないと死んじゃうよ新屋さん。冗談抜きで、結構な歳だもん。

たださ。こうやって映画で盛り上がったとしても、あそこに映っていたような集落、町やイナデンのようなお店は消えていくしかないんだろうなと。多分映画を見ている最中にもそのことが頭のどっかにあったから、なんか涙がでちゃう、ということになったんだろう。まぁいいさ。あいつらが消えるころには俺も死んでるだろうしな。丁度いいかもね。


そうそう。この映画の監督・安田真奈さんて奈良人なんだってね。この映画の中で、町の人達、イナデンのお客さんたちの様子が次々に映し出される場面があったんだけども、それを見たときなんだか河瀬直美監督の『萌の朱雀』のようだと思った。あれにも地元の人達の顔が次々と映るところがあった。あっちはもっとドキュメンタリー風だったけど。この二人、どこかで関係があるのかもしれん。