随分昔からその名前だけは知っていた。ただそれを探そうとはしなかったし、あるとき棚に並んでいるのを見つけたときも見ようとは思わなかった。しかし、通常の約1/3で借りられるとなれば話は別だ。というか、レンタル料金が安いとき以外に見る機会なんてない。というわけで。

カルメン故郷に帰る [DVD]

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いやぁ、これは辛かった。最初はなにをしゃべっているのかなかなか聞き取り難かったが、これは音量を上げて、集中して聴くと大体分かるようになった。時々カメラがガタツクのもまぁいい。

なにが辛いかって、この映画コメディらしいんだけど、ちっとも面白くない。いや、笑えるところはあった。親父さんが泣いたり(芝居が学芸会くさい。これはお父さんに限ったことではないけれど)、校長と長女と父親が並んで正座したまま、末娘がかわいいと告白するところとか、メクラのおじさんのあれこれとか、兎に角真面目な場面ほど笑ってしまう。そういえば、何度かリリー・カルメン高峰秀子が歌うんだけど、可笑しくてしょうがない。カルメンが歌い始めると、ちゃんとバックには演奏が流れ始めるし、どう聞いたってかなり真剣に歌っている(歌い上げてる)ので、聞かせる・見せるシーンのつもりなんだろうけど、笑ってしまう。

逆に、笑いをとろうと意図しているところほどつまらない。眠くなる。たまに笑ったとしてもそれは笑いを取る手法があまりにも古くさいというかお粗末にみえることによる失笑だったりする。

ベタな笑いなら古い無声映画でも笑えるんだけど、この映画の笑いってどうもベタではないみたい。一見ベタなのにな。


でも、おもしろいところもあった。“めくら”だの“パンパン”だの言いたい放題。しかも“めくら”の唯一の楽しみであるオルガンまで奪った丸十(そういう名前の商売人)は鬼だ!とか真面目に言ってるし。盲はめくらでちゃんと、“めあき”は大変だな(女の裸のために右往左往してること)とか言ってるし。


そうそう、笠智衆が校長先生役で出ていた。既におじいさんぽくて笑ったけど、途中で丸十と取っ組み合いになったとき、一本背負いを決めていてさらに笑った。丸十を投げた後、「教育者である自分が暴力を振るってしまったが後悔はしていない、浅間山が見ていてくれる」(一回こっきり、ゆるーく投げただけなんだが。田中○昌容疑者はこれみて反省すればいい。あれでさえ暴力だってよ)とか言っている。他でも、「(カルメンのような芸術家が出たことで)浅間山もさぞ鼻が高くしているだろう」なんてへんてこな台詞も何回か言ってた。


褒めるところもある。この映画、時々どーーん!という感じで浅間山浅間山を背景にした牧場が映る。これが結構インパクトがある。小学校の場面でも背景は山だった。そうそう、小学校で思い出したけど、登場する子供が例外なく小汚くてしかも裸足。どうみても動員されましたよっていう動きなんだよな。あれにくらべれば今時の映画に出て来る犬猫のほうがずっと演技が上手い。ま、それで笑ったんだけど。


浅間山だけじゃなくて電車もなかなかかっこよく映っていた。見終わったあとで、この監督、電車と浅間山を写したいためだけにこの映画とったんじゃないかと思った。


丸十の幇間(甲高い声が五月蝿い)とかカルメンの義理の兄(見た目が特に気持ち悪い)も印象に残るなぁ。あ、この映画日本で始めてのカラーらしいんだけど、この人から建物まで茶色灰色程度しかない村に色鮮やかな衣装を纏った東京帰りのモダンガール2人が闖入するというのは、カラーであることを効果的に利用しようという配慮があったのかもね。木下恵介ってやるな。