うへぇ

ちょっと記憶にないくらいの歯痛で眠れなかった。左上顎がじんじんと痛み、ちょうどその下側もその痛みに釣られるかのように同種の痛みを感じた。


それはこれまで幾度となく経験した虫歯の痛みではなく、鈍痛、それもかなり激しい痛みで、頭痛に近いものがあった。その証拠に2時から3時ごろには眠れないほど痛いにもかかわらず意識が朦朧としてきて、起きながら変な夢を見ていた。


それは、どんな格好をしていても痛みはまったく和らぐことがなかったにもかかわらず、こうすればいいんだよという声が聞こえてきて、実際そのようにした途端痛みを殆ど感じなくなった。確かに口内の同じ場所がずんずんと熱をもって腫れているのが分かるのに、痛みだけを感じなかった。


こうすればいいんだよという声は、ひどく暗く空が茶色に染まった砂浜を空から見下ろす格好で僕がそのとき見ていた世界全体から聞こえてきた。その砂浜の上には何かが流れていた。重くねじれた流れで、波打ち際に沿った方向とそこから90度折れた方向だけにしか流れず、見た目は殆ど阿弥陀くじのようなもので、色は暗い青や赤や黒や茶色が絡み捩れ合いながら激しい勢いで流れていた。


その流れは初めてみたものに違いなかったが、悪夢によくあるように、僕は初めて見た驚きを感じながらもその正体を既に知っているという状態だった。その流れはあらゆる差別やら偏見やら人間自身の愚かさに対して下された罰のような複雑な苦しみやらで出来たもので、誰一人打ち砕くことが出来ない種類の存在であって、延々と続く砂浜では誰もが耐えていた。誰もがというのは、その激しく捩れながらところどころで直角に曲がっている流れの、まさに曲がっているところに、必ず1人、人間がいた。人間といっても人の形をしているわけではなく、意識そのものであって、このこともなぜか既知のことだった。


で。こうすればいいんだよという声は、僕の歯痛は、その捩れた流れとは異なる苦しみだけど、彼らのような姿勢で耐えればやり過ごすことが出来るよという意味だった。その姿勢をとると、実際痛みは殆ど感じないにもかかわらず、さっきまでひどく痛んでいた場所は確かに今でも熱を持ち腫れあがっている感覚も同時にあるといった不思議な状態のまま眠りに付いた。


こうやって起きてから振り返ると、全く意味不明で何がなんだか分からないけど、あの激しくよじれ流れる何か の感触が生々しく、半分諦めたようにそれに耐える人間の様子もかなりはっきり覚えていて、これまで経験したことのない気持ちの悪い夢だった。


ほんとうはもう少し細かい設定があったけど恥ずかしすぎて書けない。ともかく、人間はそんなにしてまで生きていくものなのか! うへーと思ったことは間違いないことで。


一部とはいえこうやって書いておくと思い出す切っ掛けくらいにはなるんだろう。あと自分の壊れっぷりが分かる。