蒼き狼 地果て海尽きるまで 【Genghis Khan: To the Ends of the Earth and Sea:2007】

馬映画でなにかない?って聞いたらこれがいいって人が居たので見てみた。





チンギス・ハーンが生まれてからモンゴルを統一するまでを描いた映画。


主人公の少年時代テムジンを演じたのが『ラスト・サムライ』で少年・飛源を演じた池松壮亮だった。姿勢は良いんだけどね。


で、テムジンの母であるホエルンを演じたのが若村麻由美、そのホエルンを他の部族から強奪し、自分の妻としたテムジンの父イェスゲイを演じたのは保阪尚希。この強奪シーンがショボイ。映画の冒頭、ホエルン乗せた馬車と数騎(夫を含む)の一団をこれまた数騎の兵士が追いかける。疾走しながら弓を射るんだけど、引きでとっているために凄くしょぼく見える。もっと走る馬や馬車、弓を射る追っ手の手元を寄って写せばそれなりに迫力も出せたのに、とすぐに嫌な予感が。


で、イェスゲイはそれなりに勢力がある部族の族長で、それなりに威厳もあるという設定なんだけど、保阪がヒョロヒョロすぎてまったく迫力がない。にもかかわらず、大仰な台詞や敵将を斬り殺すシーンがあるために帰ってギャグのように見えてしまう。人選を誤っている。


で、肝心の成長したテムジンを演じたのが反町隆史で、この人は確か織田信長を演じたこともあったと思うんだけど、あのときと殆ど変わっていない。テムジンの妻ポルテを演じた菊川怜はその顔をみた瞬間予想できた通りの出来。若村麻由美もそこそこキャリアもあるのに、てんでダメ。一番キャリア長そうな松方弘樹の演技はどうみてもギャグにしか見えない。この人角川映画となると必ずこんな風になるのね。


この映画、公開当時評価が低かったらしいが、その主な理由として「日本人が日本語でモンゴル人を演じているのが無理がある」とwikipediaに書かれていた。でもね、それは違うと思うの。


確かに、見始めた最初は違和感があった。でもそれ自体は慣れる。ハリウッド映画では大抵どんな時代、どんな国、どんな民族であってもみんな英語で押し通してるけど、あれと一緒。同じアジア、モンゴル系の顔なのだからその点は大丈夫。


問題は、日本語で台詞を言う日本人俳優全員がそろいもそろってちょうへぼ演技だという点。


びっくりするほどヘボ揃い。全員大根。


あまりにもひどいのでなんか理由があるんじゃないかと考えていた。で、気が付いた。みんなの大根ぶりが同じだということに。みんな同じちょう棒読みなのだ。


ひょっとしたら監督は全員を棒読みさせることで何か良い効果を狙っていたのかもしれないが、どうみてもなんのメリットもありませんでした(少なくとも私には)。


ひょっとしたらこの監督はお年寄りなのかもしれない。なんか古いもの。遅いし。


たとえば。テムジンがライバルの弟に命を狙われるシーン。


ぎらんっ、と刺客さん。





テムジンさんが背中を向ける。




刺客さん、もう一度ぎらんっ。




ナイフを抜きます、刺客さん。




刺客さん、どりゃーっと襲い掛かった!




グサーッ!




ってあれ?刺客さんのほうがやられました。それはいい。でも首にナイフ刺さっただけですぐに身体動かなくなって倒れますかね?脊椎やったようには見えないんだけども。


とにかく、古いでしょう?なんか昔のちょうマンネリ時代劇のよう。


この映画、演技部分を見ているかぎり、どうも『モンゴル チンギス・ハーン博物館』のなかでエンドレスで上映されているお勉強用の資料ビデオみたいなんだな。それにしちゃ長すぎるけど。


しかしです。馬映画ということでいえばかなりよかった。脚が短く体高の低い馬なので騎乗している人間がよくあるサラブレッドなんかと比べてずっと小刻みに揺れている。トトトトトッて感じでお馬さんが走るとタタタタタッて感じで人が上下する。可愛いんだこれが。開戦前に平原を見下ろす丘に並んだ馬たちが頭を上下に揺すぶってるシーンがあったけど、ちょう可愛い。


あと当たり前だけどみんな騎兵。歩兵らしいのがちらっと見えたこともあるけど単に馬を下りていただけかもしれない。とにかく大量の騎兵がぶつかり合うところはなかなか気持ち良い。


日本人役者以外はたぶん現地の人たちなんだと思うけど、すごい上手い。人馬一体ってまさにこういうものかと。馬が倒れて人が投げ出されるところなんてすごい良い。ただいくら良いといってもたった一回の落馬シーンを数台のカメラで撮影して使いまわすのはやめたほうが良い。というか使いまわすならいいけど、角度変えただけでつなげて見せたら、いくらぼんやり見ていても一頭か二頭の落馬シーンだってことはわかるから。こういうところも無神経というか手抜きなんだよな、この監督。


いっそ日本人ゼロで全部むこうの役者つかって、他の監督で撮影すればよかったのにな、と思う。お金だけ出して。


だって、遠くに彼らの聖地でもある山脈があるだけで、ほかは見渡すかぎりの草原に、可愛い(かつ走り始めるとかなりの迫力がある)馬たちが群れとなって疾走しているところは本当にすばらしい。気持ち良い。戦闘シーンも現地の人たちだと思うけれどなかなか良い。特に、馬上で仰向けに反った姿勢で真後ろから来る追っ手を射るシーンは初めてみたけど、あれはなかなか格好いい。


こういうところを見るかぎり撮りたくなる気持ちがよくわかる。人数も馬数も衣装もかなりの数そろっているのに、出来上がった映画はこのザマ、というのがこれ以上ないくらい残念。


素材の良さと出来の悪さの落差がこれほど大きい映画も珍しい。お金もかけているのにね。