フェアウェル さらば、哀しみのスパイ 【L'affaire Farewell:2009】

見てきた。


『フェアウェル さらば、哀しみのスパイ』


エミール・クストリッツァが主役のセルゲイ・グリゴリエKGB大佐を演じている。やばい、このおっさん監督ちゃうかったっけ?とちょっとびっくりするくらい堂々と演じていて、しかも上手い。


たしかに、本邦の岸部一徳同様、その顔はずるいわ、といいたいような癖のある顔をしているエミールおじさんなんだけど、やっぱりそれだけじゃなくて上手い。こんどからクストリッツァ映画に出る役者はきついだろうな。監督廃業して役者に専念したりして。逆はけっこうあるけど監督から役者とか聞いたことない。


映画の内容はKGBの大佐がフランスに機密情報を流した事件で、実話だという。なぜ裏切ったのかというと祖国ソビエトをいったん崩壊させるしか再生の道がないと考えたためだという。映画の内容をそのまま信じるならそれは成功している、ということになる。


ただ本当にスターウォーズ計画(アホな名前だわ)が発表され、このリーク事件で西側諸国に張り巡らしていたスパイ網が一網打尽になっていたソビエトがその計画に対抗する手立ても力もなかった、そんでもってゴルビーペレストロイカの必要性を認識した、というのが崩壊の原因かどうかはわからない。いくらなんでも、そんなことで、とも思うけど、案外外交というのは囲碁や将棋のようなもので、ああいう風に動くのかもしれないとも思う。

しかし西側の情報(かなりのレベルと量なのだった)はダダ漏れで、ソ連は基本軍事力や技術力ではなく、産業スパイも含めた情報を盗むという活動で支えられていたらしいので、それが断絶してしまえばほんとうにお仕舞いなのかもしれない。


しかしスパイ行為そのものは、実話、とか言われてないと、これは本当なのか?と思うような単純というか稚拙というかあっさりしたものだった。ということでここはそれほど面白いところではない。たぶんリークした大佐側の家族と受け取ったフランス側の技師夫婦の二つの家族のドラマが見せ所だったのだろうし、そういう点でこの映画は上手く言ってると思う。


ミッテランはそれほどでもなかったけれど、アメリカのレーガン大統領やCIAへの揶揄が結構キツイ感じ。だってレーガンなんて仕事もしないで執務室で繰り返しジョン・フォードの西部劇を見て、傑作だとか言ってる。見てるのは若いリー・マービンが出ている『リバティ・バランスを射った男』だった。アホだ。ブッシュJrと同じような扱いだった。あ、ブッシュは役者じゃなくてリアルだったな。


モスクワ大学が何度か映る。異様で、なんとも言いがたい不穏な雰囲気が漂っている。大学というよりKGB本部といったほうがしっくりくる。あれがスターリン様式なのか。


フェアウェルから得た情報で西側で活動していたソ連スパイが次々に逮捕されるんだけども、アメリカのワシントンでジョギング中に逮捕された女性がなぜかダイアン・クルーガーで、なにかあとからあるのかなと思ったけど、ほんと逮捕されるだけの役だった。ひょっとしたらそのまま彼女使って、つかまったスパイを主役にした映画でも撮るのかもしれないな。