木曜日だった男 神を廃止する!

これを読んだ。


木曜日だった男 一つの悪夢 (光文社古典新訳文庫)

木曜日だった男 一つの悪夢 (光文社古典新訳文庫)




ぐぬぬぬぬ。


かなり面白かった。


『木曜日=サイム』が赤毛で詩人の無政府主義者グレゴリーにつれられて行ったビール酒場の地下にあるほとんど球体のような鋼鉄製の部屋(壁にはたくさんの爆弾が並んでいる)に入ったところで頭が吹っ飛んだ。『リーグ・オブ・レジェンド』をちょっと思い出した。


そこから先はある程度、というか殆ど予想通りの展開だった(んだけど、さすがに最後は分からなかった。読んだ今でも分からないけどさ)。いきなり公安の刑事にスカウトされて、しかもその日にグレゴリーにあってそのまま一連の事件に流れ込むなんておかしいもん。あ、スカウトされていきなり刑事になるところは普通におかしい。グレゴリーにあって事件に巻き込まれていくあたりは超常的におかしい。


巨大な体躯にこれまた異常なほどおおきな頭をのっけた無政府主義組織の議長『日曜日』の描写がすごく面白い。月曜から土曜までの全ての最高評議会メンバーによって畏れられている様子でもってその異様さが示される。『日曜日』はその時点でもうほとんど人間ではない。そこに座っているだけでその空間がひどくゆがめられている様子がよーっく伝わってくる。あとあとになって、2階のテラスから飛び降りて(と見せかけておいて、いちど懸垂して手すりから顔を出すところが素晴らしい)ゴム鞠のようにびょんびょんと飛び跳ねて逃走、想像力の限りのドタバタが繰り広げられるあたりでは、知らない間にあちらの世界へ連れ込まれてしまったようで読んでいて気持ちよい。象とか最高。


日曜日と月曜日から土曜日までの6人による追いかけっこの場面では明らかに世界が壊れてしまっている。そこにいたるまでにも少しずつちくちくと正常な世界観が攻撃されていて、そこが素晴らしい。たとえば木曜日=サイムが病弱で脚が悪く杖をついているはずのド・ウォルムス教授にどこまで逃げても乗り合いバスに乗って逃げても追いかけられ追いつかれる場面や、身体がバラバラになる侯爵の場面。ひょっとして世界壊れた?と思わせておいて種あかしが用意されている。読んでいるほうとしては繰り返されると、わかっていてもじりじりとあっちの世界へ近づいていってしまう。あ、読者じゃなくてサイムたちもそうかもしれないけど。


決闘のシーンがあった所為でよけいにそう思うのかもしれないけれど、レーモン・クノーの『イカロスの飛行』とよーく似ている気がした。あと展開の飛びっぷりが『カンディード』にも似ている。あ!ゴレンジャーにも似てると言えば似てる。


とにかくすごく面白い。最後はよくわからないままだけど。


大事なことを書き忘れていた。普通の風景の描写なんかがすごく上手い。訳がいいのかもしれないけど、長すぎない言葉で分かりやすく、しかも俗っぽくならない描写。