日の名残り 【The Remains of the Day/1993】 “In the past, the world always used to come to this house, if I may say so.”

これを見た。





その昔ダーリントンホールに住もうたダーリントン卿に仕えた執事スティーブンス(アンソニー・ホプキンス)のお話。第二次世界大戦直前の頃を戦後の今、昔の同僚ミス・ケイトン(エマ・トンプソン)を訪ねる道すがら思い出すという構成。とはいってもほとんどが回想部分で、現在の様子はごくたまに挿入されるだけ。


構成は、昨日の『つぐない』とは違ってごくシンプルな作りで見ていて混乱することはない。昔々のお屋敷の様子を見ているだけで面白い。一瞬しか映っていなかったけれど、福引の抽選器のようなものに刃物を数本ぶっ刺しておいて取っ手をクルクル回して研ぐんだろうか、あの道具がすごく気になった。


お話は年の離れた執事スティーブンスと優秀な部下だったミス・ケイトンの間の微妙な恋愛(未満か)とヨーロッパ各地およびアメリカから集まった政治家たちがやり取りしていた第一次世界大戦後のドイツの処遇にまつわる政治の話の二本立て。政治のほうについては少し哀れみを感じないこともない。主人であったダーリントン卿が戦後ナチ寄りだった(なんだかいい人。だけど全然ダメってあたりが近衛みたい)ということで責めを受け反逆罪ものだと報じた新聞社を相手にした訴訟にも負け、公的にもダメを出された人であったためにスティーブンスも彼の執事であったことを人に隠したまま暮らしている。しかし実際のところスティーブンスは、途中で客にからかわれた場面でも分かるように政治や経済についてはまったくの無知、かつ立場上会話の中身は聞かないという状態だったことが分かる。プロに徹するほど政治からは離れるわけで。ケイトンを訪ねる途中で寄った町では首相(チェンバレンかな?すげーそっくりに見えた)や各国大使といった外交の大物と関わりがあったことを、卿の執事であったことは隠しつつも自慢しているあたりに彼の小市民ぽさが出ていて見ているこちらが苦しくなる。ただそれがあるからこそダンケルクで戦死した青年に胸をうたれるのかもしれない。


お城といっていいような建物と二人の演技。これで十分。ほんとは超溌剌としたアメリカ人青年を演じたクリストファー・リーヴを見て、ああこのころは元気だったんだな、とか暗闇で光るホプキンスの目を見て、うわっやっぱこの人はレクターだよ、などと余計なことも思いながら見ていたんだけど。特にクリストファーは見ててつらかったな。


しかし、古い英国貴族の世界やらナチに関わった連中の微妙な立場やら中高年の男女の矛盾した行動やらのお話を日本生まれの35歳が書いて、しかもブッカー賞貰うとか意味不明だ。わけわからんね。