コミック昭和史
これを読んだ。
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コミック昭和史(3)日中全面戦争~太平洋戦争開始 (講談社文庫)
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水木しげるの個人史がそのまま昭和史となっている。子供時代から戦争へ駆り出されたあたりの水木しげるは、今実際にそばにいる人間だったらそうとうムカついてしまいそうな糞がつくほどのボンクラだけど、ラバウルのジャングルでの悲惨、というか酸鼻を極めた体験も淡々とやり過ごしている(もちろん描き方だけの話かもしれないけど)あたりで、見え方が変わる。
彼はほぼ完全に当時の軍隊の枠組みから外れており(というか日本人の枠組みから外れていて、軍隊のなかでただひとり、パプアニューギニアの現地人と考えられないほど仲良くなっていたりする)、ピシっとしなければいけないところで常に、文字通りのあさっての方向を眺めていて、その所為でビンタを受け続けている。そういう人間だったからこそ生き延びられたのだと、そんな風に思えてくる。なんかすごい、この爺さん。
復員後も、ほんっとーにわけのわからん生活を送りながらも何とか生き延びていく。すごいわ、ほんと。
戦後についてもそれまでと同様に大きな事件はもちろん、小さな事件でも記憶にのこるもの(そういえばそんなこともあったな!という)が丁寧に並べられている。それを追うだけで頭がいっぱいになる。戦後の後半あたりからは自分でもよく知っている話が続くんだけれども、それが戦前の様子と全く同じ距離感で語られていて、ああ、これが、長く生きている人の目に映る歴史というものなんだろう、ということを感じた。そして逆に、戦前の異常な世界が、それはそれでその中で生きている人間にとっては、今の私が考えているほど異常なものではなかったのではないか、と思った。思った、というより仮想的に体験したような気分なので、ほとんど実感したような感覚がある。
そして最後の最後あたりになって、じん、と来た。なんだろう、この不思議な気持ち。よくわからない。経験したことがないような。
多分これは傑作だ。漫画よりも水木しげる本人のほうがずっと面白い。ということがわかった。