レニ 【Die Macht der Bilder: Leni Riefenstahl】

これを見ている。


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例のシャベル大隊が登場するニュルンベルクのナチ党大会の記録映画『意志の勝利』を撮った監督レニ・リーフェンシュタールの記録映画。


これは凄い。これは凄いというか、彼女は凄い。この映画で監督レイ・ミュラーからインタビューを受けているレニ・リーフェンシュタール90歳を超えている。だが並みの90歳ではない。ここまで元気な90歳は初めて見た。


背筋がまっすぐと伸び、まったく危なげなく歩くこの女性。何かを話す時も常に明確で、そのまなざしは澄んでいる。見ていて気持ちいい。間違いなく今のおれよりずっと頭脳明晰。90歳に負けた。


見始めてすぐにこの女性に魅入られていくのが自分でもよくわかった。おかしい。危ない。やばい。なんかすごい好きなんですけどレニばあちゃんのこと。


おっと、内容だ。いまは第一部を見終えたところでこれを書いている。ダンサーとして始まった彼女の人生は、見て感動した登山映画の監督に手紙を出し、会い、すぐに女優として出演することになる。この行動力。彼女の若い時ならサモアリナン。


登山映画に出演しながら(これまた凄いの。氷点下28度の山で人工吹雪を吹きつけられたり、ザイルで宙づりになっているところに雪崩をぶつけられて4週間の怪我をしたり。登山といっても裸足に普通のスカート姿で岩山をフリークライミングしたりしてる。これだけで惚れた)、映画の演出、撮影技術について理解を深める。そのあと、自分で映画を撮ってしまう(!)。そこで編集のもつ重要性に気が付く。


そのあとで、十分な予算と撮影に関するほとんど全権と言っていい権限を与えられて撮ったのが『意志の勝利』だったということ。この映画の中でもいくつも引用・挿入されているけれども、どの場面もはっとするような画面構成や動きを持っている。


彼女は多数のカメラで同時に撮影した素材を、撮影後5か月かけて編集したと語っている。それも、はじめは日に12時間だったものが徐々に増え、最後には20時間編集室に座り続けていたという。その説明を聞いていると、最も重要なポイント(『意志の勝利』が持つ魅力の素と言ったほうがいいか)は、リズムらしい。


音楽、行進などの動き、それと編集のリズムが一致(調和?)することが重要だと。わかりやすいけれど、ここまで徹底した映画は、現在でさえそんなにないかもしれない。


『意志の勝利』を編集用の機器だろうか、裸のフィルムがいくつものロールの間をシュルシュルと流れていく机に座り、小さなモニターで見ながら映画の技術的な解説をするレニ・リーフェンシュタールの表情!爛々と輝いているその目!本当に驚くほど活き活きとしている。


彼女は「政治的なメッセージなどに興味はなかった。問題はこの映画を当時あったニュース映画以上の何物かにすることただ一点だった」と言う(あれはプロパガンダ映画ではなくドキュメンタリー映画だという。違いは一切ナレーションがないこと。これは定義だろうか?)。その語り口に全く迷いがない。実際そのように作ったのだろうし、戦後続いた批判もあって考え抜いたということもあるかもしれない。


それでも、芸術家の自身の作品に対する政治的な影響への責任についてどう考えるのか?と執拗に問う監督に対して答えたレニの言葉がすごかった。編集している最中にこの党大会の政治的なメッセージに気がついたという。レニによると、ヒトラーを始めとする党の幹部の演説について大幅にカットする必要があり、その方法として演説の頭とお尻を残し、そこへもっとも党員の反応の強かったキーセンテンスだけを挿入するという極めてシンプルな編集を行ったらしい。


で、党大会のメッセージとは何かというと「雇用創出と平和」だという。これはかなり意外だったけど、確かに平和を連呼していた場面が引用されていた。またドイツ人の90%が熱狂していた、支持していたと何度もレニが言っている点を丸飲みしてみると、どうも今までぼんやりと想像していた状況とはかなり違っていたのかもしれないと思い始めている。


民衆を導く自由の女神』に描かれた市民のあの顔。メッセージとして「平和」を強く打ち出したナチ党大会の党員の顔。非日常的(異常)な、昂揚した妙に明るい雰囲気。似ていたかもしれない。講義ではどういう話になってたっけ?ちょっとおもしろすぎて興奮してます、今。