惑星ソラリス

むかーしむかしある所にとても腕の立つ猟師がおりました。この若い猟師は村のだれよりも遠くから獲物を仕留めることができる村一番の腕前を持っておりました。一度山に入るとかならず背負いきれないほどたくさんの獲物を担いで村に戻ってきたこの若者はしかし、妻を亡くしてからは山に入ったきりほとんど村には降りてこなくなりました。


妻を亡くした猟師は年がら年中、山にある小さく粗末な猟師小屋に住みこみ、火薬や弾が切れたときだけ毛皮や干し肉、熊の肝などを売りに村に降りてくるという暮らしをするようになったのです。ある秋の日、猟師はいつものように仕留めたタヌキとウサギ数匹を担いで山小屋へ帰る途中、キィーーーンという鳴き声を聞いて振り向いた向かいの山の峰にそれまで見たこともないほどうつくしい牝鹿を見つけました。はっとした猟師はその日の獲物をすべてそこに置き、その牝鹿に狙いをつけました。しかし、牝鹿は猟師のほうを見ていたのかその瞬間すぅっと山の奥へと動き、ちょうど弾が届かなくなったあたりでこちらを振り返ったのでした。猟師は隣の峰まで慎重に移り、もう一度静かに狙いをつけました。するとどうでしょう。牝鹿はまたも山の奥へと逃げました。そしてまたも弾の届かないあたりでこちらを振り返ったのでした。


若者はその日の獲物をすべて置き去りにし、それまでその若者はおろか村人の誰もが入ったことのないその山へ牝鹿を追って入って行きました。追いついて狙いを定めては逃げられる。それを何度か繰り返し、日暮れが迫ってきたころ、若者を見失ったのかその牝鹿は霧が立ち込めた山の中にぽっかりと開けた草原のなかで安心しきったように草を食んでいました。これが牝鹿を仕留める最後の機会だと思った猟師はぐぅっと息をひそめ、たてた左膝に銃を乗せこれまでで一番の慎重さで狙いをつけました。そしてゆっくりと引き金に指をかけ、絞ろうとしたその時、牝鹿は何かに驚いたかのように左へと飛んだのでした。猟師はこれを逃すまいと狙いをつけたまま銃身を左へ動かした瞬間、姿勢を崩した若者はすぐそばにあった崖から落ちてしまったのでした。


寒さと痛みで目を覚ました猟師は自分が沼のほとりにいることに気がつきました。しかし夜、脚を怪我をしたままはじめての山でうろうろすることはできません。打った頭もがんがんと痛みます。怪我をした脚を縛り、火をおこして木に体を凭れかけながら夜が明けるのを待つことにしました。


キィーーーン。いつの間にか眠っていた猟師はあの牝鹿の鳴き声を聞いて目を覚ましました。声が聞こえた沼の向こうを見ましたが牝鹿の姿は見えませんでした。とそのとき、すぐ脇でなにかが動く音がしました。振り返った猟師は、あまりのことに体が凍りついたように動けなくなりました。そこには死んだはずの妻がいたのでした。こちらに気づいた妻は若者の名を呼び怪我の具合を心配して縛り上げた脚に手を延ばし、さすりはじめたのでした。


若者はぼんやりした頭で死んだはずの妻といろいろ話をしました。妻は若者のことは知っていましたが、ところどころわけのわからないことを言いました。若者はふらふらする頭で考えました。夜も明けてずいぶんと経つのに沼のまわりは濃い霧で覆われていて何も見えないうえ、この霧もなにやら妙なにおいがする。これはきっと狐にでも化かされているに違いない。急に怖くなった若者は後ろを向いていた死んだはずの妻を撃ち殺しました。若者は泣きながらもう一度死んでしまった妻を埋めてやりました。


そうこうしているうちにまた夜が来てしまいました。頭の傷は気にならないほどになっていましたが、痛めた脚はまだ歩けるほどには回復していませんでした。なにより化かされたとは言え、妻を殺し埋葬した若者はこれ以上ないほどぐったりと疲れていました。若者は、今度は火も焚かずにそのまま横になり眠ったのでした。


次の日。若者は体を揺らされて目が覚めました。若者を揺り起こしたのは亡くした、そして昨日自分の手で殺したはずの妻でした。若者はもうおだやかに笑いかける妻を殺すことはできませんでした。脚の痛みも歩けるほどにはなっていましたが、彼は二度と妻のそばを離れようとはしませんでした…おしまい。


惑星ソラリス [DVD]

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という、怪談みたいなお話でした。そこに未知の惑星だとか宇宙船だとかいったSFっぽい設定が入ったような。なので怪談というよりショートショートみたいな感じでした。ショートショートのネタなのに2時間45分もあります。なのでものすごーく間が長い。いちいち長い。すっごい眠くなる。そりゃ原作がレムさんだもの、眠いわ。


でもね、なんか見てしまうの。色褪せたフィルムで見る未来だからなのか、妙なBGMの所為なのかわからんけど。なぜかパンツ一枚にジャケット姿になっていたおっさんが不思議だ!っていう理由ではない。

色の白い奥さんが綺麗なの。透けて見えたおっぱいもきれいだし。この女優、ナターリヤ・ボンダルチュークというらしい。どっかで聞いたことあるなと思ったらあの『戦争と平和』のセルゲーイ・ボンダルチュークのお嬢さんだという。そういえばこのDVDもIVCだわ。


でもなんといってもいちばん驚いたのは日本が写ったこと。東京だろうか、ロシア人が乗った車がいつのまにか日本の高速道路を走っていた。72年の映画だけど、あのころのソ連からすると日本の高速道路は未来っぽかったんだろうか。それともロシアあたりの道路だと見慣れているので、単に見慣れない日本を選んだんだろうか。よくわからんけど、まぁあの狭い所に複雑に絡み合い、何本も重なった道路に、これでもかっというほど大量の車が走っているのは案外日本くらいのものかもしれない。昔よくあった未来の絵に描かれたチューブ状の道路と似てるしね。


あと、特撮がウルトラマン円谷プロ)っぽかった。


あと、あと、生き返った奥さんってなんだかソラリス側が送ってきた生体端末っぽかった。『ラ・イストリア』読んだばっかりだったもんで;