第五回講義 その一

とりあえず記憶を失うのが早いものですから、速度を大事にささっと行きます。


講義で使用したフィルムは以下の3本です。


1. Triumph des Willens 1935 Leni Riefenstahl

2. E la nave ve 1983 Federico Fellini

3. C'era una volta in west 1968 Sergio Leone

『意志の勝利』

1.は日本語では『意志の勝利』で内容は1934年のナチ党の党大会の記録映画です。うちの近所のレンタルはドキュメンタリーもの、ノンフィクションものが少ないのでネットで探すとYouTubeにありました。





なんと104分27秒でフルだそうです。英語字幕つき。アレであれしてもいいですが、240MBあります。


講義で見たのは上記wikipediaの解説によると「RAD屋外集会」(31分過ぎから)という場面です。ここの撮影、特に顔の写し方がポイント。


一党員の顔のアップ(下から見上げる・あおり)→集団(上から見下ろす)→顔→集団と繰り返します。集団を見下ろすのはずらりと並んだ様子を見せるためには仕方ないと考えられますが、顔のアップをあおり気味に撮っているのは、彼らを崇高に見せるためであると言うことです。


アップで映った党員の視線はカメラ(画面)を見ておらず、では一体どこを見ているのかというと壇上のヒトラーであることはすぐに分かります。ただ大蟻食先生の解釈はさらに進んでいます。彼らの顔が一様にポジティブでありながら完全にニュートラルであることから、実際はヒトラーのさらに向こう側にある未だ確定していない未来を見ているのではないかという解釈です。


この映画は1934年の党大会、つまりまだ戦争前の様子であり、あのニュートラルな顔というのは、彼ら自身はこれからどこへ向かうのかという意志は持たないが、兎に角命令さえあればどこへでも突撃するぞ!という(属性で並べただけの)永遠の指示待ち状態”の顔(=総動員を可能にする顔)であるというお話でした(多分)。


個人的には先生の仰った“ポジティブさ”というものがいまひとつ分かりませんでしたが、少なくともいやいややっている、恥ずかしそうな顔には見えませんでした。なにか大事なものが抜けた一種異様な顔。


で、この“総動員を可能にする顔”とは何か?ざっくり言ってしまうと前世紀に興ったいくつかの全体主義ー国の内外に多大な犠牲を強いたーでみられた顔であり、それは人から個(性)を抜き取り類(型)に還元することで類(型)としての動きのみが許される状態に置かれたものの顔であるとのこと(ここで言う全体主義は広義、ざっくり言えばという程度。以下同様)。


この説明だけだとなにやら分かったような分からないままのような感じだったのですが、全体主義(政権)に共通する特徴を聞くと少しはっきりしてきます。これらの全体主義政権はみな、自国民に対して以下のようなことを喧伝(洗脳?)していたということです。

「人間をあたらしくする」「人間をまったく別の存在にする」「目標遂行のために耐えられる人間に鍛え上げる」

まったくはた迷惑な話です。実に鬱陶しい。しかし、自ら選択を続ける自由よりも類型にはめられ、命令を下されることを選んだほうがラクであると考える人が多く、それらの国ではどどどーっと大きな流れが出来てしまったのでした。←これ、わたくしの大好きな漫画、坂口尚の『石の花』の最後辺りに出てくるイヴァン(パルチザン側)と幼なじみのマイスナー大佐のやり取りと一緒なので、よーく分かった気がします。さらに付け加えると、上に挙げた「人をあたらしくする」等の話、どっかで見たことありませんか?そうです、『雲雀』、カルージヌィ大佐ですよ。あそこで大佐の周りにいた連中の顔は屹度“完璧な総動員顔”だったに違いない。きめぇ。やべぇ。しかしまた“大佐”だよ。なんで悪いことするのはみんな大佐なんだろう。カーツ大佐がすべての起源なのだろうか。ん?カルージヌィってカーツなのか?今頃気付いたけど。


おまけ。このパートの最後あたりに顔の好みなんて大きな差があるからねという流れで出てきた『ベルリン陥落』の主人公の顔ですが。普通主人公にはしないだろう顔、あれを主人公にしようと思うのはあの頃のロシア人だけだろうという顔。気になりましたのでI googled.


面白いことは面白いですがamazonはダメでした → 『ベルリン陥落』


ということで原題『Падение Берлина』で探すとありました → Падение Берлина (Борис Андреев, Борис Тенин, Марина Ковалева) 144 мин (1949 СССР)


多分このハチマキしている男が主人公でしょう。名前はボリス・アンドレーエフというそうで、こんな顔です。


АНДРЕЕВ Борис Федорович


Борис Федорович Андреев


アジアっぽい顔ですね。多民族を纏めるという思惑で少数民族顔を選んだ気もしますが、内容がわからないので憶測です。かわった主役顔でいうとなんとなく岡本喜八監督『独立愚連隊』の主役・佐藤允(Google画像検索)さんも似たようなもんじゃないのかなと思います。


眠いので今日はここまで。