I like Sagittarians. You can trust them.

レンタルが安かったので借りた。

サンセット大通り [DVD] FRT-018

サンセット大通り [DVD] FRT-018



これは面白かった。こういう古い映画はあまり好きではないんだけど良かった。最近ようやくモノクロ画像を見ても色が想像できるようになったこともあるかもしれない。


展開が速い。特にノーマの家へ居つくことになるまでが速い。さらに台詞も速い。しかし長回しというほどでもないけれど、カット数が少なくゆったりした感じがするので、その辺のせわしなさは相殺されている。


これだけ長めのカットが多いということは、かなり計算されているということだし、他の短いカットであっても構図が決まっていて、見ていて疲れない。鏡を多用したり、いろいろと細かい。ギリスがかわいいベティを婚約者(ルー・フィリップス・ダイヤモンドをお笑いにしたような見るからに人のよい男)のところへ追い返し、振り返ったところ、2階のテラスにノーマが立っている場面とか。


主人公の一人であるノーマは往年のサイレント映画の大スターで、彼女に「台詞が映画をだめにした」と言わせてるくらいなので、この映画自身は音を消しても面白く見られるくらい考え抜かれてるかもしれない。


で、内容の方ですが、こっちもいい。冒頭語り手であるギリスがいきなり死んでいるわけだけど、話が進むにつれて、これはギリス本人も知らない間に“あっちの世界”へ迷い込んでしまった奇談・奇譚かもしれないと。


まず登場人物がおかしい。チンパンジーを丁寧に埋葬する女主人と外国語なまりのいかついハゲ執事(使用人?)。この二人以外に人気のない古い邸宅に古い高級車。途中、カードゲームの場面でお客が出てくるけれど、みんな歳をとったサイレント映画の役者仲間で、ギリスの表現でいえば蝋人形のような精気の無さ。パーティーに呼ばれた楽団は機械のように演奏をするだけでこれまた人間くささゼロ。ひょっとしたら『アザーズ』とか『シックスセンス』系(『ミザリー』『シャイニング』とか江戸川乱歩とかも入るか)かと思い始めたころ、ギリスだけでなくノーマとマックスも含めて邸宅の外の世界との接触が描かれる。


ノーマが自分の書いた脚本で映画を撮らせようと、現実の、陽の光がたっぷり降り注ぐパラマウントのスタジオへ現れ、巨匠と思しき監督デミルから過去の栄光にふさわしい歓待を受けたところでああやっぱりこれは現実なのだなと知らされる。


もうこの、前振りで持たせた予想を裏切るあたりで十分面白いんだけど、ここから最後にかけてさらにグッと盛り上がるのだから、全体のバランスもちゃんと考えられている。大体、マックスの正体が、ノーマの最初の夫で、ノーマをスターに仕立てた将来有望であった若手監督(グリフィスと前述のデミルに並ぶほど)だったという設定がすごい(マックス自身が告白したときの音楽が大げさだったけど)。


この閉じた世界にこもってきた二人、ノーマとマックスの個性が強烈。個性というか、欲望が強烈。この二人の強烈な欲望で捻じ曲がった空間が、闖入したギリスを媒介にして、普通でたいしたパワーも持っていないけれど圧倒的に広い外の世界と対峙するときに、予想通り弾ける。このいつ弾けるんだろうかという膨らみ続ける風船に対する期待感というかどきどきする感じがとてもいい。


ま、ほんとのところ、ノーマに関してだけは弾けなかったというか、さらに自分の欲望の中へずぶずぶと突き進んでいくんだけど、そこんところが予想通りで、わかっちゃいるけど面白かった。


予想通りっていうのは、最後の場面。ノーマは念願の女優に復帰し、マックスはその監督をやることになる場面のこと。階段から降りてきたノーマはスタッフ(実は警官やらマスコミ)や今自分が撮っていると思い込んでいる映画を将来暗闇で見てくれているだろうファンに礼を言う。このシーン、実際映画館でこれを見ていた人は自分に話しかけられているような感じがしたんだろうな。よく出来ている。フェードアウトの仕方もかなり面白かった。


ギリスがベティを諦めてノーマの元から去るところは、それなりにノーマにも気をつかった結果だったと思うんだけどなぁ(京極堂の憑き物落しを思い出した)。撃たれるくらいならサッサとベティと一緒に逃げればよかったのに。一回キスしただけじゃん。勿体無い。


とにかく、おもしろうございました。ホラー映画より怖かったです。