ホワイト・ティース(上) (新潮クレスト・ブックス)

ホワイト・ティース(上) (新潮クレスト・ブックス)

ホワイト・ティース(下) (新潮クレスト・ブックス)

ホワイト・ティース(下) (新潮クレスト・ブックス)




ようやく読み終えた。上巻を読み始めてから何ヶ月掛かってるんだろうか。


僕のことであるから当然翻訳されたものを読んだわけですが。面白かった。最初はなんだこりゃ?という感じしかなかったんだけども、徐々に面白くなってきた。特に後半、それも最後の1/4あたりからすべての登場人物や、彼らのたどってきた歴史というかなんつーかそういったものがぐぐぐぐぐぐーーーっと集中してくるところのスピードと盛り上がり方がとても良かった。


主な登場人物は

  • アーチボルド、クララ夫妻とその娘アイリー
  • サマード、アルサナ夫妻とその双子の息子ミラトとマジド
  • クララの母親ホーテンス・ボーデンと居候ライアン・トップス ホーテンスの母でジャマイカ人のアンブロージアとイギリス人の父チャーリー・ダーラム大尉
  • 遺伝子工学の研究者マーカス・チェルフェンとジョイス・チャルフェン夫妻と息子たち、長男はジョシュア。自らの名を冠したチェルフェニズムを標榜するイギリス的中流家庭

あとは、

FATE=過激な動物愛護団体とKEVIN=過激なイスラム原理集団くらいか。FATEは取ってつけたような扱い。そうそう忘れてならないのはフューチャーマウス。


大きな話の柱としては登場人物の多くがルーツ云々で葛藤があるようなので、やっぱりイギリスに住む移民1世と2世のアイデンティティということになるんでしょう。それだけじゃないんだけど。でも白人のアーチーもいい味だしてるんだよな。あのおっさんいきなり自殺しかけるんだけどずーっと通して一番いいキャラだ。平和。


自分自身がイギリス的な何かに浸食されつつあるため焦った(多分)サマードは二人の息子のうちマジドを敬虔なムスリムに育てるため子供のころに自分の故郷バングラディシュに送り返す。1人に絞った理由は家計。だがしかし。サマドの思惑通りに話は進むはずもなく、送り返したマジドはイギリス人よりもイギリス的(マーカス・チェルフェンがベタぼれするほど)になって戻ってくるし、手元に残したミラトはイスラム原理主義団体に入るということでキレイに逆転してしまって話がややこしくなる。逆転しなくても双子が両極端に分かれるだけで大変なんだけど、この逆転するあたり、良く事情を知らない僕でもそうだろうなとリアルに感じたりした。とくにミラト(マジドは全体的に影が薄い)。ミラトとサマードって似てる気がするな。ともかく兄弟が対面するだけで緊張感が出るくらいの危機。


あーなんていえばいいのか、過去や大過去や現在、場所もイギリスやジャマイカバングラディシュや第2次世界大戦やらを行ったり来たりするので、すげー振り回されるんだけど。やっぱり主役は2世の世代かな。あと男と女でかなり色分けできるんじゃなかろうか。ステレオタイプな気がするし、フェミな人には叱られるかも知れないけど。


ミラトとマジドは特に意識したわけでもないのに、両極端な2人に分裂する。DNAは同じなのに(←これ結構重要なのね)。で、一方女の子のアイリーは反発したりするんだけども結局のところ、ジャマイカの曾ばあちゃんアンブロージア → エホバの証人やってるお婆ちゃんホーテンス → ずいぶん年上の白人と結婚した母親クララという一本の流れにまっすぐ繋がってる。クララは微妙か。そんで、そこが、あの、ごちゃごちゃなって、また一本にまとまるのね。しかも女の子。これ凄い。女ってすげー。さらにその時点でまだ元気で生きているホーテンスばあちゃんはもっと凄いです。


男のほうはといえば、まあ大体駄目だめ。サマードはなかなかのインテリなんだけど戦争で活躍することも無く左腕が使えなくなってウエイターやってルーツがどうだのと悩み続ける。マーカスはこれもう完全な科学ヲタで、ま、科学者なんてあんなものなんだけど、チェルフェニズムなどといっていても実際他人の大人に対しては表立ってそれを口にする勇気はないし。ジョシュアはどうなるのか微妙。ライアンは頭おかしいし臭そうなのでパス。多分ホーテンスにさえ捨てられてる。男のなかでは一番弱々しく思えた人生大学出身のアーチーが結構救いになってた。バスの切符の下りは単純なギャグとは思えない、なんともいえない味があった。


ま、すべては最後の1/4のためにあると思えば最初のころのなんだこれ感は納得できる。クララがバスの2階で、周囲の乗客をものともせずに大声でやり合う2つの家族たちに対して、どかん!と演説をぶつ場面は沁みました。結構ストレートなネタばれというか答えそのものだったんだけども。で、〆が気弱な父のアレだから、スミスさんのバランスのよさというかやさしさを感じる。


最後にあの人が出てきたのもびっくりしたし、お前いくらなんでも見分けつくだろ、とか罰が軽すぎるだろとかいろいろあるんだけども幸せな予感があってなかなか清々しい読後感でした。ねずみも幸せになりそうな気がするし。


と思っていたら、昨日の深夜にこれをやっていた。

ベッカムに恋して [DVD]

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『ホワイト・ティース』を読む前からいい映画だと思っていたけど、この本とあわせてみるとさらに面白く感じる。移民なんて真面目に考えたこともないし知らなかったんだけども、イギリスの移民ってこんなもんなのかへぇと。


こんなものかってのは、ジェスミンダ・バームラというインド系の女の子が主人公なんだけども、サッカークラブのチームメイトに聞かれて、“黒人との結婚なんて有り得ない、ムスリムなんてウェー(といいながら親指で首を切るジェスチャー)、やっぱり親はインド系同士を望んでる”と答えるとことか、完全なインド式(と思われる)結婚式の凄さね。


『ホワイト・ティース』は映画にせずにTVドラマにしたそうだけど、話を絞って映画版を作るならこういった映画になったんじゃなかろうか。監督がインド移民2世(多分)だし。それに『アンダーグラウンド』と同じくらい音楽が癖になるしね。特にエンドロールに流れる出演者やスタッフの歌ってる歌が好き。まだ見ていない方は是非どーぞ。損はしません。どこぞの馬鹿がキーラ・ナイトレイのほうがキレイなんだから主人公を入れ替えろといってたがどうみてもパーミンダのほうが可愛いです。間違いなくかわいい。キーラも悪くないけどアゴが発達しすぎだ。全く西洋に毒されおって、金髪ならなんでもいいんだろ?女を見る目まで毛唐に合わせるたぁ全く情けねぇ、まさにイエローモンキーだな。しかしなんで『ベッカムに恋して』なんつーアホな邦題にしたんだろ。『Bend it like BECKHAM』でいいのに。


大蟻食さん観ないかな〜と思ってるんですけど。じつは。少し。ほんのちょっと。情けない女は出てこないので安心してください。