脳内味覚

TVなんかで食い物の映像をみるとその味を無意識に想像している。その味というのは過去の自分が体験した、つまり食べたときの記憶の中から呼び出してきたり、その組み合わせだったりする。だから一度も聞いたことも食べたこともないものは想像できない。


そういうのはふつーのことなんであるが。もうひとつある。漫画とかアニメーションで描かれる食べ物がある。例えば藤子不二雄さんの『パーマン』だったか『忍者ハットリ君』だったかに出てくるモジャあたまでメガネ男子であるところの小池さん。小池さんはいつもラーメンを喰っている。それも割り箸いっぱいの幅を使ってずるずるずる〜とおいしそうに喰っている。まあ、喰い芸だ。あのシーンを見ると本物のラーメン映像を見たときと同じように無意識のうちに必ずあのラーメンの味を思い浮かべている。しかし。その味はしょーゆでも塩でもなくトンコツでもない。それどころかこれまで自分が食べてきたどんなラーメンとも違う味であることにある日気づいてしまった。


なんでその味(しかも無意識に想像しているもの)に気がついたのか。それはこれまたアニメーション中の喰い芸としてはかなり有名であろう『ハクション大魔王』のハンバーグのバカ喰いがきっかけだった。ハクション大魔王の好物はハンバーグで、山盛りのハンバーグを次から次へとパクパク食べるのだが、チビのころに見たときはこれがすげーすげーうまそうで自分も食べたくてしょうがなかった。が、ある日、実はあれはハンバーグではなくてコロッケだったのだという話をどっかで小耳に挟んだ。それを聞いたときは猛烈に裏切られた感じがしたのだけど、言われてみると見た目はハンバーグというよりはコロッケだったことを思い出した。で、コロッケを食べる大魔王を想像したのだが、うまくいかない。リアルコロッケの味とアニメが融合しないのだ。やっぱハンバーグだなということでハンバーグを食べる大魔王を想像してみたのだが、なんとそのとき感じたものはリアルハンバーグの味ではなかった。なんかしらん微妙な味なんだが確実にウマーで幸せな感じがするふしぎな味だった。


なんで脳内味覚と呼ぶことにした。