潜水服は蝶の夢を見る 【Le scaphandre et le papillon/The Diving Bell and the Butterfly】

これを見た。





ミュンヘン』で怪しい情報屋(パリを犬連れて颯爽とあるいてたひと)を、『007慰めの報酬』では悪役を演じ、本邦では阿部サダヲにそっくりと言われる(私はそうは思わないけれど)マチュー・アマルリックが主演。


主演ながら、あまり映らない。特に序盤は声しか出てこない。なぜならば、この映画は脳出血かなにかで脳幹だか脊髄だかが上手く機能しなくなり、動かせるのは眼だけというLocked-In syndromeに陥った男ジャン=ドミニク・ボビーの話だから。


動かせるといっても右目は瞬きができないため、乾燥して角膜が破壊されるのを防ぐため瞼を縫い合わされてしまう。医師によって縫われる様子もジャン=ドミニクの視点で映し出される。いやだと拒否しようにも言葉は話せないのはもちろん身体は動かず、首を振っていやいや、という動作もできない。ただひたすら頭の中でいやだ!と考えるしかない。


凄まじく恐ろしい状況であり、見ているこちらもいつ己の身に起こるか分からないという恐怖を抱えつつみているこちらまで鬱になりそうだが、当のご本人は美女たちに囲まれて(「死にたい」と伝えた言語療法士デュランに本気で怒られたりしつつ)、徐々に生きる気力のようなものを取り戻していく(マリ=ジョゼ・クローズが一番よかったなぁ)。これが本当に美女だらけなのだ。理学療法士とか口述筆記ならぬ瞬き述筆記をしてくれる編集者とか愛人とか妻とか。


想像と記憶、そして瞬きによるコミュニケーション。これだけで生きていく姿というのが、結構沁みてくる。というかやっぱり親子(おじいさんと自分)とか親子(自分と子供たち)という関係にやられるのだ。


瞬きだけで修羅場になるってのも凄いけどね。さすがパリジャン。